スタッフ日誌

中井深雪

2012年06月23日

6月23日

しゅんちゃんは、脳性まひのため少し体が不自由な、甘いマスクの小学校 6年生の男の子です。
でも、お母さんと小さい頃からたくさん歩いて育ってきたので、今では長い遠足もできますし、階段の上り下りも、かなりスムーズにできます。
何より上手なのは、トランポリンの上でのジャンプです。

しゅんちゃんが初めて音楽療法に訪れてくれたのは7歳の頃でした。
まだ、殆ど何を言っているのか判らないくらい、声も小さく、発語も少なかったのですが、その頃からトランポリンだけは驚くほど元気に、テンポよく飛べました。

あまりに元気に飛べるので、とても敏捷な子なのではと誤解しかけたこともあるのですが、しゅんちゃんは、トランポリンを飛ぶ時以外は、動きもおしゃべりも極めてスローテンポでした。なので、知っている歌を一緒に歌ってみる、といった活動なども、しゅんちゃんがフォローできるテンポに落としてみると、見事、どんな曲でも、しゅんちゃんのマスクのような、甘く優しいバラードになってしまうのでした。

そんなしゅんちゃんが、セッション中に泣き崩れるようになったのは、 3年生の終わり頃からだったでしょうか。
眠くなってしまった時、頭で考えなければならなくなった時などに、突然気分が低迷してしまうようでした。

どんな時も、お母さんとセラピストが二人掛かりで支えてバルーンに座って勢いよく飛べると、気分が上向きになって、体の力が抜けてくる、ということがはっきりしてからは、とにかくしゅんちゃんが、考えすぎて体に力が入ってしまうことを何とかセーブしてあげられるようなお気に入りの楽曲を探すようになりました。
しゅんちゃんの場合には、はじめから即興でスタートするより、お気に入りの楽曲をきっかけに即興に移行する方がリラックスできる、ということも判りました。

かくして、しゅんちゃんは、お母さんが大好きな中島みゆきのナンバーで、特にテンションが上がる、ということも明らかになりました。

そんなしゅんちゃんが、最初は歌のカードを持ってきてリクエストするようになり、やがて、頭に浮かんだ歌をリクエストするようになったのは、小学校4年生の後半くらいだったでしょうか。

やがて、歌カードを卒業して、今度は思いついた歌を言葉で伝えようとするようになってくれました。

でも、曲の名前を伝えようとしても、お母さんにさえ、曲名を当てることが難しかったので、大変でした。今にしてみると、お母さんにとってはそれはとても悲しいことだっただろうと思います。

セッション計画における選曲の流れに沿ったリクエスト曲だと私たちも類推が利くのですが、唐突に流れに無関係なリクエストが来ると、どうしても正解にたどり着くことができません。

分かってもらえないと泣いてしまうしゅんちゃん、泣いてしまうと、セッションが続けられなくなることもありました。

歌のゲームで、さまざまな言葉を「言ってみる」という活動を随分しました。面白い言葉を提案すると、面白がって言ってくれるようになり、やがて、少しずつ、しゅんちゃんの言葉は解るようになっていきました。

でも、それでも、いざ、肝入りで私たちに唐突なリクエスト曲の名前を伝えようとすると、全身に力が入ってしまって上手く伝えられず、泣いて、荒れてしまうしゅんちゃん。

やがて、そんな時でも必死で堪えて、大好きな中島みゆきの歌と即興の組み合わせで、自分なりに気分を上げていけるようになったしゅんちゃんは、ここのところ、ABBAがお気に入りで、♪ダンシング・クイーン に♪Thank you for the Music に♪mamma mia と、さまざまなABBAの往年のヒット曲をリクエストしては、「ママミア」や「センキュー」など、歌いやすい英語の部分を一緒に歌うようになっていました。

そして先日久方ぶりに、しゅんちゃんは、唐突なリクエストをしました。流れからすると、 ABBAの曲なら類推は容易だったのですが、全然違う曲だったので、さあ大変!

でも、私は諦めませんでした。泣き声が大きくなるしゅんちゃんの横に座って、それ以上体に力が入らないようにとしっかり抱きしめ、励まして、そして、コ・セラピストとお母さんと 3人がかりで、ついにしゅんちゃんの唐突リクエスト曲を探し当てることに成功したのでした。

なぜかこの日、私には、しゅんちゃんのリクエスト曲にたどり着けるかもしれないという予感がありました。

しゅんちゃんが、何年もかけて身につけてきた精いっぱいの発語のスキルが愛おしくて、懸命に言おうとするのをもっと聞きたかったことと、これまで何回失敗したか分からないというのに、それでも「なんとしても伝えたい、判ってもらいたい」という思いの強さは、萎むどころか、むしろ増している、とその時確かに思ったからでした。

最近は、しゅんちゃんもけっこう強くなって、お母さんに反抗もだいぶできるようになって、泣いてもあんまり可哀想にならなくなった、ということもあります。

だから、今日は絶対に当てたい!当ててみせる!当たるまで泣いててもいいよ!
頑張れ!しゅんちゃん!

そう、心の中で言い続けながら、私が抱きしめて励まし、お母さんが正面から目を合わせて言い当てようといろいろなタイトルの破片を口にし、そこから類推できる、可能性がありそうな曲をコ・セラピストが音楽室中の曲集から探しては提案してみる、という 3人がかりの大捜索。

やがて、これまでに使ったことのある曲からなら類推してくれるかと思ったのでしょう、「みいつけた!」としゅんちゃんがヒントをくれたのですが、それもすぐには聞き取れません。それでまた泣いて、再び諦めずに「み・い・つ・け・た!」とゆっくり言ってくれたので、曲名の♪みいつけた!かと思ったら、そうではなく、どうやらその「みいつけた」の番組の中の別の曲らしい…。「あーーーー!あっ!あっ!」と叫んでまた泣き声になるしゅんちゃんに、コ・セラピストが大急ぎで楽譜集の目次から探しだし、「あっというま?」と訊くと、

「はい… (*^_^*)!!!」

当たるとしゅんちゃんは、ものすごく穏やかな優しい声でこのようにいつも、「はい」だけ言ってくれるのですが、この日の「はい」には、いつになく強い力が籠って、ほとんど叫んでいました。

こうしてついに、しゅんちゃんは、唐突なリクエスト曲を私たちに伝えることに、初めて成功したのでした!

そして私たちは、しゅんちゃんがどれだけ、この曲をやって欲しいということを解って欲しかったのかを改めて知ったのです。

活動報告/NEWS

copyright (C) NPO KOKORO TALK MUSIC STUDIO
All Rights Reserved.